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【コラム】新型コロナワクチン、どれを打ったらよいの?

【コラム】新型コロナワクチン、どれを打ったらよいの?

著者 岡村 元義

2024年11月29日

 新型コロナワクチンについては、日本人は大部分の人が接種済であるが、新型コロナウイルスの感染流行は昨年の5類移行後も繰り返されており、高齢者において重症化しやすくなっているため、65歳以上を対象に定期接種が始まった。筆者も65歳以上であるので接種案内を受け取ったが、はて5製品のワクチンのどれを接種すべきか迷っている。迷う理由は2つ。

 ①そもそも筆者もこれまで起源株ワクチンを5回接種しており、おかげでコロナ陽性を1度も経験せず、顕著な風邪の症状もないので、新型コロナウイルスに対する免疫が維持できていると自覚している。初期の起源株ワクチンでもXBB.1.5やJN.1変異株に対する免疫がある程度惹起されると厚労省のホームページにも説明されているのだから、改めてワクチンを打つ必要性がどれだけあるのか?

 ②65歳以上と指定されており定期接種は任意である。11月現在発売されているワクチンは5種類あって、そのうちの1つを選ぶよう接種者に選択を迫られているが、どのワクチンを選んだらよいかの比較情報が乏しい。実際にクリニックに接種の予約を取ろうとすると、医師の好みや考え方の違いがあって、特定のメーカーのワクチンを勧めてくるが、医師の説明を聞いてもすっきりしない。筆者が通うクリニックの医師は、「コミナティワクチンで予約を受けています。コスタイベは1バイアル16人分で予約を合わせるのが大変なので」。どうも5種製品の選択はメーカーや卸業者の営業力もあるが、現場の医師の判断が大きいように思われる。筆者はワクチンを作る側の立場にも身を置いており、もっと医療現場の声を聴くべきなのかなと思ってみたりする。

 5製品を比較した情報は乏しい。10月に厚労省が新型コロナ定期接種リーフレットを発表したが1)、5製品の臨床データに基づく副反応のリストを掲載している(図)。この比較表をみると、主な副反応である痛み、頭痛などはどれも似たような出方で、この安全性情報からどのワクチンを選んだらよいかあまり参考にならない。

 ないのなら筆者のほうで新型コロナ定期接種ワクチンを選ぶための参考情報をまとめてみますか。

 ●レプリコンワクチンは自己増幅型mRNAワクチン

 定期接種ワクチンとしてはじめて登場したMeiji Seika ファルマ社のコスタイベ®筋注は自己増殖型のmRNAレプリコンワクチンである。自己増殖型mRNAの何が優れているのかというと、スパイクタンパク質のmRNAにRNAレプリカーゼをくっつけることにより、われわれの細胞に取り込まれると、レプリカーゼの働きによりスパイクタンパク質を増幅させることができるので、従来のmRNAワクチンの投与量は30µg~50µgであったのが、5µgと少量でも従来ワクチンと同等の免疫応答がみられるのが特徴である。

 mRNAワクチンの懸念点は、免疫応答に必要な量以上のmRNAおよびスパイクタンパク質をつくって体内に必要以上に残存し、その結果ヒトの体内に悪さをしないかという点である。コスタイベ®筋注の審査報告書には、mRNAは投与後1週間程度血中に維持され、投与後8日程度までスパイクタンパク質が発現し、mRNAはその後低下して30日後には完全消失するとあるので、mRNAがいつまでも存在してヒトの体内で免疫応答に必要な量以上のスパイクタンパク質を生産し続けることを心配しなくてもよいのかもしれない。

●抗原が違うのはダイチロナ®筋注

 ヒトへの感染に作用するのは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質である。5種のワクチンの抗原はいずれもこのスパイクタンパク質であるが、第一三共社のダイチロナ®筋注の抗原はスパイクタンパク質の中のReceptor-binding domain(RBD)のみを抗原としている。今回の新型コロナワクチン接種について、パンデミック発生からの全期間を通してワクチンの副作用として頻発したということはないのだが、スパイクタンパク質ワクチンを打ってできた抗体が免疫増強させるどころか、逆に新型コロナ感染増強(Antibody dependent enhancements:ADE)を促進するという論文が大阪大学の免疫研究チームから出された3)。新型コロナに感染した患者で生じた中和抗体のうち、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質分子の構成領域であるN末端ドメイン(NTD)に結合すると、新たに侵入してきた新型コロナウイルスの感染を防御するどころか逆に感染を増強することがわかったのである。このADE現象については、これまでにデング熱ワクチンに関して、ワクチンを接種するとデング熱発症のリスクが増えることが報告されている4)。第一三共社のダイチロナ®筋注は、このADEを引き起こす可能性のあるNTDを削除し、スパイクタンパク質のRBD領域のみを発現するmRNAワクチンとしたことで他のmRNAワクチンとは異なっている。新型コロナワクチンの感染予防効果についてはまだ不明な点が多く、感染、発症リスクを減らす工夫をしたこのmRNAワクチンを選択するという根拠にはなるであろう。

●mRNAワクチンの剤形も保存条件も変わっている!

 パンデミック真っ盛りの2020年、mRNAワクチンの保存は超低温(-70℃以下)が必要ということで、医療機関において超低温フリーザーの購入騒ぎが起きた。その後mRNAワクチンの保存安定性データが増えてきて、医療機関で常備されているメディカルフリーザー(-20℃)の保存でも安定であることがわかり、ワクチンの取扱いのハードルが下がった。さらに、である。10月からの定期接種用新型コロナワクチンには液剤で2~8℃の保存が可能なmRNAワクチンが登場した。当初発売されたmRNAワクチンを接種する場合、超低温フリーザー(-70℃)以下で入荷、保存しておいたmRNAワクチンを取り出し、室温で1時間以上かけて解凍し、新しい注射器に投与量を充填してヒトに接種する必要があった。2~8℃の液剤ワクチンなら、医療機関ならどこにでも置いてある冷蔵庫から取り出して短時間で接種することができるので医師の手間が省ける。

 さらにコミナティ®筋注はバイアル製剤を1人分使い切りのプレフィルドシリンジ製剤にした。この剤形変更は医療機関にとっては安全性、効率性の点でありがたいはずである。

●ヌバキソビッド®は、唯一スパイクタンパク質ワクチン製剤である。

 遺伝子組換えスパイクタンパク質抗原をそのままワクチンにしており、ワクチンの基本型である。これまでのウイルス感染症ワクチンはウイルスタンパク質を抗原としており、遺伝子組換えタンパク質を用いたワクチンとしてはB型肝炎ワクチンなどで実績もある。感染予防効果、重症化予防効果ともmRNAワクチンと同等の効果が得られている。また起源株ワクチンであっても追加接種により変異株ウイルスに対する中和抗体価も上がっている。

●新型コロナワクチンの予防効果の持続期間は確立していない

  新型コロナパンデミックが中国で発生してから5年が経とうとしているのに、実はどれだけ免疫が持続するのかはまだ確立していない。なぜなら、このワクチンを接種してから、どのくらいの期間で抗体が消失するのか、グローバルで大がかりな中和抗体の時間経過のデータが取れていないからだ。データが取れていない理由は、中和抗体の検出系の確立が新型コロナウイルスの変異スピードに追い付いていないためである。

 はっきり言えることは、変異株に対するワクチンを追加接種すれば、落ちた免疫をふたたび強化させることができると各ワクチンの臨床データが語っていることである。

 この5種の新型コロナワクチンのどれがよいかについては中立の立場で語るべきバイオコンサルタントとして控えるが、表のように5種ワクチンの比較をまとめたので接種するワクチンの選択の参考にしていただければと思う。

 ただし、肝心の発症予防率および重症化予防率に関するデータについては文献5) 第2回厚生科学審議会に提出された各社資料に記されており、6月20日には企業側了解が取れたので公開されてはいるが、本コラムで引用するわけにはいかないので表では非公開とした。発症予防率および重症化予防率をもとに5種ワクチンを選択したいということであれば、各自でそれらのデータをご確認いただきたい。

参考文献

  1. 厚労省新型コロナワクチン定期接種リーフレット(令和6年10月版).
  2. 2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解、一般社団法人日本感染症学会、一般社団法人日本呼吸器学会、日本ワクチン学会、2024年10月17日.
  3. 日本医療研究開発機構プレスリリース、新型コロナウイルスの感染を増強する抗体を発見―COVID-19の重症化に関与する可能性―、掲載日 令和3年5月25日.
  4. デングウイルスのADEと重症化機構、ワクチン開発、長崎大学熱帯医学研究所、モイメンリン、国立感染症研究所(NIID)シンポジウム、2015年 4月.
  5. 第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会資料.